秋、街路樹に想う

West 10thのカタロパの並木
バンクーバーに来たとき街路樹が多いことにびっくりした。それも樹齢200年以上のカタロパやメープルが並木となってトンネルを造っていた。 故郷の札幌にはポプラ並木はあったがバンクーバーほどではない。そこを彼女と腕を組みながら歩いてモノにした男がいた。キザな殺し文句は「一緒に歩きませんか? このように…これからの長い人生を!」だとさ。その前の年にはその男、別の彼女をあと一押しというところで舞台設定を誤って取り逃がしてしまった。お盆の墓参りに連れていったのだ。ご先祖様の眠る墓の前で「いつかあなたもボクとこの中に入る気はありませんか?」これは失敗の巻だった。
 バンクーバーでデートをするならUBCまで続くウエスト10thのトンネル並木がいい。アルマまで127本の見事な樹木の下を歩けば、夏でも汗ばむことはない。小鳥やリスたちのにぎやかなお出ましがある。春はアルマの向こうのウエスト・ポイントグレイの300本の桜並木は壮観だ。花吹雪の中を手をつないで歩くのがいい。疲れたらひと休みして肩についてる花びらをそっとつまんで落としてあげる方がキザな言葉よりずっといい。大学構内も見事な樹木でいっぱいだが、行き着く先は新渡戸記念公園の静かな日本庭園だろう。

シャンソン気分
 晩秋、路上にこぼれている枯葉を踏むとイブ・モンタンが歌うシャンソンを聴きたくなる。「覚えていてほしい。2人が仲良かった幸せな日々を…ぼくは忘れ ないよ。枯れ葉がシャベルに集められる。思い出と後悔もまた…」と詩人ジャック・プレベールが自分の恋の終わりを詩にした。それをナチの迫害から逃れてフランスに亡命してきた作曲家ジョゼフ・コスマに手渡した。「枯葉」は「夜の門」という映画の主題歌としてイブ・モンタンによって歌われヒットした。舞台はパリ・サンジェルマンデブレの通り。低いカメラアングルで、朝早くひげ面の清掃夫がメープルとイチョウの枯葉を掃いていた場面を今でも覚えている。
 ボクにはこの映画にまつわるホロ苦い思い出がある。「夜の門」を3回目に見たときには彼女を同伴していた。2人分の入場料と夕食代が無くて古本屋にドイツ語辞書と皮表紙の大英和辞典を持ち込んだことだ。手にしたのは2千円ポッキリ。語学を専門としていた学生だったボクにとって、翌日からのドイツ語演習と英語の読みとりに大きな支障をきたしたのだった。 
 この青春のほろ苦い想いをシャンソンにできないだろうか? プレベールとコスマならきっといいシャンソンにしてくれるのだろうが…。歌ってくれるならイブ・モンタンはもういないのでリック秋田谷さんがいい。
 次もいい詩がつけばシャンソンにできそうな話だ。
 11月19日の朝、VIAターミナル駅近くの歩道に立っていた少年が、道路から歩道に乗り上げた車の下敷きとなり、ひき逃げされていた。降りてきた運転手は自分の車を点検してどこも壊れていないことを確認、倒れている少年をチラッと眺めただけで走り去った。少年はカナダ・メープルの若木君。折れたひざは皮がむけ1日中しょぼ降る雨に打たれてうめいていた。
 もしそれが人間だったらこんな不条理な扱いは許されない。翌朝には何もなかったように根こそぎ若木は消えていた。きっと街路樹を担当する育樹局の人が片づけたのだろう。

豊かな街・バンクーバー
宿り木しているナナカマド
 今年世界130都市の中でバンクーバーはメルボルンと並んで「もっとも住みやすい都市」にランクされた。「さもありなん」と新聞発表前からこの街に暮らしながら日々実感していたことであるが、改めてその記事を読んで嬉しかった。
 日本より物価が安いとか、交通の便がいいとか、施設設備が整っているとかばかりでなく、何よりも樹木がのびのび育つこの環境だけでボクは十分満足している。
 今年も街路樹にホワイトイルミネーションが見られる季節になってきた。 間もなく家も樹木も電飾されて、クリスマスに彩りを添える。

 晩秋に宿り木しているナナカマドを見つけた。それも大きな街路樹カタロパの地上5メートル付近のへこみに根を張って赤い実をつけていた。さながら懐が深いカナダでひっそり暮らす自分を見るようだった。


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