今年3月、地球温暖化を加速させてきたシベリアの森林火災について多くの基礎研究データを蓄積している北大・低温科学研究所を訪れた。所長の福田正己教授から温暖化に 歯止めをかけようとしているお話を伺った。
シベリアからのスモッグ
シベリアでも、毎年続けて大規模な森林火災が頻発していた。一昨年は日本列島の3倍の面積を焼き尽くして最悪の年だった。昨年はBC州を大幅に上回って、カムチャッカ、ハバロスク、ヤクーツクなど、日本全土の半分に相当する面積が焼失した。5月、6月にかけて東北、北海道の上空をシベリアからのスモッグが覆い、北日本の農作物は日照不足と低温で不作だった。
永久凍土の融解
シベリアは地球全体の2割の森林を有し、そこは二酸化炭素を吸収し、酸素を供給する『地球の肺』の役割を果たしてきた。いまは酸素の供給量より二酸化炭素の排出量が上回ってしまった。タイガと呼ばれる永久凍土に、1億年かけて自然界が作り上げた豊かな森林が、人為的ミスによって燃え続けている。驚いたのは消火したら二酸化炭素は排出しない、と思っていたら1メートルほど堆積した土壌から3年間も二酸化炭素が排出し続けていたという。
さらに森林攪乱は地盤沈下を引き起こし、永久凍土に封印されていた濃いメタンガス(二酸化炭素の21倍)が止めどもなく放出されて、そこの森林の修復はもう不可能となる。無植生状態になるまでのプロセスは次のようになる。森林の攪乱→凍土の融解→地盤沈下→湖沼の形成→塩類集積→無植生状態(現在の地球上の砂漠の多くはこのような過程を経てできたそうだ)。
火災多発の原因
シベリアではどうして火災が多いのだろうと福田教授にお聞きしたところ、5月から10月にかけての降水量が少ないこと。そして森林管理能力の低下が原因。説明として旧ソビエト時代には比較的、森林対策機構が機能していたが、ロシアへの移行で経済状況が悪化し、慢性的な予算不足と消火に必要な装備や機材、ブルドーザーなどの大型機械、航空機、人員輸送用のトラックなどの、燃料の購入が困難になったこと。火災の70%は人為ミス。経済状態の悪化によって、基礎的な生活物資の確保にも困難をきたす住民が、薪やキノコ・山菜・キイチゴ類の採取や狩猟などで、森林に入る頻度が増加している。住民の火災に対する意識が低く、たき火やタバコの不始末が大きな原因。
予防対策として、火災の多くは人為ミスなので、そのような行動を抑える為の法規制や注意を勧告することで火災発生は軽減可能になる、という。
次に現在、同研究所と東北大・東アジア研究所では、シベリアの森林火災発生の気象などからの予測、早期発見、防火方法と消火対策、森林の育樹、種まき、温暖化に歯止めをかけるための研究が、ロシア、アラスカの研究者たちとの間で進められている。
シベリアでは早期発見したからといって水をかける消火は不可能だという。水が乏しく広域に同時多発する森林には困難がある。そこで伐採による防火帯を、風の向きなどを予測して作る程度だという。焼け跡に種まきをして森林更新をする技術を模索している。
森林火災の早期発見の信頼に足るツールとなっている、宇宙衛星画像受信装置NOAAの導入は注目に値する。
今年5月3日から6日までアラスカ州フェアバンクスで、10カ国以上の学者が集まる、温暖化防止についてのシンポジウムがある、と聞いている。各国政府や国連にも働きかけるための、重要な準備会議となればよい。
各国の政府も謙虚に自国と他国の科学者たちの、地味な研究に耳をかたむけ、手遅れにならない温暖化対策が求められる。
人類の賢明な振る舞い
気象異変による干ばつや、洪水と暑さに耐えられない都市部のヒートアイランド現象は、日本列島では恒常的となっている。それが世界規模で進行しているのだから、ここらで環境問題を自分の問題として認識する必要がある。前回、本欄で問いかけた「この事態をどうする?」というのは、自分に発する言葉とならない限り、事態の改善とはならないのではないか、と私は考えている。
環境破壊に関して『ライフ』の著者リチャード・フォリーは「人類の未来は、世界の未来を巻き込むことになる。従って自分たちをコントロールできるならば、未来のコントロールも可能なのだ」と語っている。そしてその言葉は、「人類が賢明に振る舞うことを期待しよう」と結ばれていた。
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東北・北海道の上空2000mを被ったシベリアの森林火災 (提供:北大低温科学研究所) |
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北大教授福田正巳所長 |
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3月雪解けの北大低温研究所 |
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