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自然写真家
上村 知弘 さん
人間は本当に
最低限のものさえあれば、
生きていけるものなのです
文 編集部、写真提供 上村知弘
『日本で最も美しい村連合』の一つ、北海道鶴居村とユーコンの美しさに魅せられた1人の写真家がいる。人や動物が凛と生きる様をシャッターに収める上村知弘さんは、人懐こい優しい眼差しで、大自然との出会いを語リ始めた。
将来が見えない青年時代
高校生の時は受験勉強ばかりしていたという上村さんは、良い大学に入り、良い会社に就職するというのが普通の生き方だと思っていた。しかし、大学に入学後、アメリカに2年半留学したときに価値観ががらっと変わったという。もともと、自然の中にいたいという気持ちはあったが、具体的にどうしていいか分からない。まあ、自然の近くで就職できたらいいなとしか考えていなかった上村さんに、アメリカで出会ったルームメイトは大きな影響を与えたのだ。また、英語が話せなかった上村さんは、3ヵ月後くらいから少し引きこもりになり、3日間学校へ行かないということもあった。しかし、その彼を救ったのもルームメイトだった。
「アメリカではみんなが夢をもっているんですよね。ルームメイトは映画監督になりたいとか…なれそうに無いのに、結構、本気で熱く語るんですよね」。彼と話していて、今までの自分はなんだったのかを考えた。大学を辞めて旅に出たい!そんな強い希望をもつようになった。しかし、結局、大学を卒業。これからどうしようかと考えていたときに『Into the wild』(Jon Krakauer 著)という本に出会う。裕福なアメリカの大学生が、全てを捨ててアラスカを旅するという話に影響されて、ユーコン行きを本気で考えるようになったのだ。犬ぞリとカヤックを習いにアラスカかユーコンに行くのだと、旅の目的も見えてきた。
2004年、遂に待望のアラスカ・ユーコンに出かけることになった。アラスカの海で3週間のシーカヤックの旅や、ユーコンでの1週間ほどの川旅の後、そのままユーコンで冬を越すことになる。ホワイトホースのホステルに泊まった上村さんは、動物の罠猟を見たり習ったりして、ビザを延ばし延ばしして約1年ユーコンに滞在した。
ユーコンでであった大自然 2004年10月にオールドクローという、アサバスカインディアンが300人くらい暮らす、道路も通っていない村に行ったときのこと。そこで、家を貸してもらって6週間暮らした。ツンドラを移動するカリブーを目当てに、インディアンが住み着いた小さな村。彼らは100年前までは狩猟採集民だった。そこで、村を離れて原野のキャビンで暮らす当時75歳のおじいさんに出会った。彼は、カリブーを追い込むところや、罠猟、動物の解体の仕方、雪の原野での火の起こしかたなどを教えてくれた。凍った川の上をキャビンまで渡るとき、縄で自分を縛り、危ないところを足で探りながら渡っていく方法や、狼の取り方などは昔の方法そのもので、とても興味深かったという。
「狩猟採集をしていた頃の話を、夜になると蝋燭の光の中で話してくれるんですよ。外はオーロラが見えるんです。なんというか、自分が自然の一部だということを感じた瞬間です」。その時の感覚が強烈な原体験として残っているのだと言う。そして、上村さんはますます大自然の虜になっていった。
写真を撮りに大自然の中に行くとき、カヤックから降ろされてたった1人になり、セキュリティーの無い生活になる。「その時が一番怖いですね。でも、何日かたつと自然のリズムに慣れていくんです。もちろん、恐怖は常にありますよ、熊が来ないか?とかね。ある日、森を歩いていたら、熊の親子が歩いているシルエットを見たんです。どうも、2匹はテントの方に向かっている。で、テントには戻らず、一晩そこで野宿したりとかね…。やはり危険をどう回避するのか考えますね」。
リスクによって得られるもの
自然の中に人間が入るということは、危険と表裏一体だ。でも、危険を冒すから、人が観たこともない特別な光景や瞬間に出会ったりもできるのだ。「ある夜、テントの外でシュッシュッシュという聞きなれない音がするんです。一瞬熊かと思ってベアスプレーを取り出し、テントのジッパーを開けて飛び出したんです。外は暗闇で、目を凝らしてよく見てみると、ザトウクジラが魚を取っていたんです。岸まで魚を追ってきた鯨を至近距離で見ることができたんですね。この光景は、感動的でした。人がいない自然の真っ只中だからこそ、見られたんですよね」。現代人は、リスクを負いたくないけどいい思いをしたいと思う人が多い。お金を出したら買えるのだろうか?いや、危険というリスクを負うから感動もあり、達成感もあるというものだ。
ワーホリで再度ユーコンに行ったとき、美しい自然を撮っておきたいという衝動から始めたカメラ。「写真にしてもしかり。機材をたくさん持って、雪の原野を歩く。重いし、写真を撮るためにセットするにも時間がかかるというリスクがある。そして、そこで撮れる良い作品は、数枚だ。「だからいい写真が撮れたときに、達成感を感じるんですよね」。
達成感を得ることは、生きている上で大切なことだ。人は緊張感の無くなった社会の中で、達成感を得にくくなっているのかもしれない。
「自然を体感するのに別にカメラを持つ必要はないかもしれないんですが、カメラで撮ることで、そのとき見えていなかったものが後で見えることもあったりするんですよね」。そして、自然は一時も同じ姿ではない。この6年間を見ても、ユーコンの氷河は確実に溶けていると言い、上村さんは刻々と移り行く自然を撮り続けたいと思っているのだ。
ユーコンと鶴居村
ワーキングホリデービザを2005年に取得し、直ぐにユーコンはホワイトホースに戻った。夏はレストラン、冬はオーロラツアーのガイドなどをし、ワークビザに切り替えて2007年までユーコンに滞在する。ホワイトホースで奥さんのタミーさんと知り合い、相談して、2007年の11月に2人で現在暮らす北海道鶴居村に移った。現在は自然写真のほかに、地域の子ども達に英語を教えたり、自然ガイドなどをしながら生計を立てている。
ユーコンと北海道を行き来する上村さん。どちらも大好きな大自然に囲まれて暮らしている。人から見たらうらやましい限りの自由な暮らし。「大学を卒業後、普通に就職する方法もありましたが、大自然の中で暮らすために、あえて定職に就かない道を選びました。20代は自然や人からいろんなことを学びました。30代の今は、その学んだことを誰かに伝える役目があるのではないかと思います。もっと人と関わって生きていきたいですね」。
将来は自然写真を続ける傍ら、カナダのユーコンで、日本から来る人のための宿泊施設をオープンしたいと考えている。人々がユーコンで自然を体験し、自分を開放できる場所を作りたいそうだ。
地球温暖化が進む中、自然環境を守る取り組みが世界中で行われ、人々の思考がエコロジーに向いている。この時期に、多くの人に自然と共存できる方法を伝えていけたらと考えているのだそうだ。
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