2005年最終号年末特別レポート

未来に残したい美しい地球
―急スピードで進む環境破壊。
今、私たちが始められることは―


取材・写真:田丸 結麻

そっと耳を澄まし、地球の声を聞く。
灰色のコンクリートで覆われ、呼吸困難に喘ぐ大地。夥しい数の工場から、
毎日間断なく吐き出される排気ガスや産業廃棄物。汚染され濁った水のせいで、
川や海に住む生物たちは生きる場所を失いつつある。
空気を浄化してくれる森林も、開発の名の下に次々と伐採され、姿を消し始めて久しい。
私たちの生活が、地球を壊し始めているのだ。今、何か始めなければ。
かけがえのない地球を守るために。

2005年はまさに「自然災害の年」だった。アメリカ・ルイジアナ州では大型ハリケーン「カトリーナ」が上陸、1000人以上が死亡するという大惨事が発生。中国・福建省では台風19号「王龍」が猛威を奮い、数千台もの自動車が水没、山崩れも起こり多数の死者を出した。テレビをつけるたび、被害にあった人々の痛ましい姿を目にし、いたたまれなくなる。そして、思う。何かが、おかしい。私たちが住む、青く美しい「地球」に、異変が起こっている。

上がり続ける地球の気温
大規模な森林破壊などが原因

 異変の原因は一体何か。最も影響を与えているのは「地球の温暖化」だと言われている。一般的にはその原因として二酸化炭素やメタン、亜鉛化窒素、それから「オゾン層破壊」の原因として知られるフロンといった「温室効果ガス」の影響が考えられている。これらの排出は産業の発達と比例して増え続けており、そのため地球全体の平均気温も上がり続けているというわけだ。

 
カナダでも地球温暖化について講演を行う福田先生
福田正己●1944年埼玉県に生まれる。1967年東京大学理学部地学科卒業、1972年東京大学理学系大学院博士課程修了。専攻は雪氷学(凍土学)。現在は北海道大学低温科学研究所教授、理学博士を務める。
著書「自然の猛威」(新版 日本の自然 第8巻、共著、岩波書店)/「北海道の自然」(日本の自然 地域編 第1巻、共編著、岩波書店)/「北海道・自然のなりたち」(共編著、北海道大学図書刊行会)
 気温が上昇すると、まず、南極の氷や高山の氷河が溶け、海水量が増加する。これにより海面が上がるため、温暖化が食い止められなければ太平洋やインド洋の島国が沈んだり、沿岸地域では浸水被害や高潮被害が発生する。
 次に懸念されるのが異常気象。大気の循環パターンが地球全体規模で変化し、風向きや風力が以前と異なってくる。同時に雨量も変化し、大雨の降る地域や、逆に全く雨が降らず砂漠化する地域が出てきてしまう。
 続いて、これらの変化に適応できない生物が絶滅していくなど、生命の生態系が完全に破壊される。
 ひとつの被害が新たな被害をもたらし、次々と終わりなく続いていく…。このままだと、地球は生物の住むことのできない「死の星」になってしまう。2005年11月28日〜12月9日まで、国連気候変動枠組条約第11回会議(COP11)及び京都議定書第1回締約国会合(COP/MOP1)がカナダ・モントリオールにて開催された。会議中の討論のニュースは、現在も刻々と進んでいる環境問題の深刻さを物語っていた。今、私たちが身近でできることは何なのだろうか? 温暖化研究目的でカナダを訪問中の北海道大学低温科学研究所教授、理学博士・福田教授に、私たちが今後取り組むべき課題点などについて伺った。

―なぜ急速に温暖化が進んでいるのか、その原因について教えて下さい。
福田教授 温暖化の主な原因というのはまだ完全には解明されていませんが、大きく関係しているのは大規模な森林破壊だと思います。
―森林破壊が進むとどのような変化が出てくるのでしょう?
福田教授 森林が減ることによって空気中の二酸化炭素が増加します。二酸化炭素が増えると気温が上がり、海の温度も上昇します。ここ最近の台風などを見ていて、規模が大きくなってきている気がしませんか? 海の温度、すなわち海面温度は台風やハリケーンをコントロールする役割を担っているので、今、既に地球はこの部分に問題が生じてしまっているのです。こうした現象が起こると、水の量が極端に増える地域、極端に減る地域が出てきてしまう。ある国々では集中豪雨に見舞われましたが、アフリカ等では急激な乾燥化・干ばつ化が進んでいます。
―森林破壊の具体的な原因について教えて下さい。
福田教授 開拓などによる森林伐採や火災が大きな原因です。例えば、シベリア。シベリアにはタイガという針葉樹に覆われた広大な森があります。タイガの下には永久凍土があり、タイガと永久凍土は「共生関係」といって、お互いを支え合う関係なんです。永久凍土の上に溜まった少量の雨水がタイガを成長させ、一方で育ったタイガが日光を遮り、永久凍土を守るという。それが、火災によりバランスが崩れ、タイガは減り凍土の融解が進む。そして恐ろしいことに、永久凍土の下には温室効果ガスのひとつ、メタンガスが潜んでいるんです。それも場所によっては大気中濃度の約数千倍という高濃度のものが。凍土が溶けるとこれが大気に放出されます。また、森林が燃えると、二酸化炭素が発生するだけでなく、メタンガスまでもが表面に出てきて、温暖化が加速してしまうのです。

利便性重視の生活はNG。
子供の頃に森や自然の大切さを学ぶ

―問題となっている森林火災の原因として挙げられることは何でしょう?
福田教授 カナダでは、全体の7割が落雷等による自然発火、残りの3割がたき火などの人為発火です。
―森林火災を防ぐ方策はありますか?
福田教授 重要なのは、森を知ることです。適切な指導者の下で、森を観察することが第一歩だと思います。森にしていいこと、悪いことをそれぞれ学ぶ。そして、自分で考える力を育てる。森と人間がどうやって共存していくかについて考えるんです。森の大切さを知る教育を、子供のうちから受ければ、火災の発生率はずいぶん違ってくると思います。
―温暖化防止のために、私たちが取り組めることは他にもありますか?
福田教授 一番大切なことは教育です。ゴミの分別なども、子供のうちから始めれば、それが生活の一部になります。「日本の常識は世界の非常識」という言葉をご存知ですか? 例えば、自動販売機。これらに莫大な量の電力が無駄に使われ、しかも缶はリサイクル性がとても悪い。自販機は環境に悪い作用を及ぼすため、外国ではあまり自販機を置いていません。また、「待機電流」という言葉はご存知でしょうか? これは、使用していないのに家電をコンセントにつないでいるとき、流れている電流のことです。この待機電流にも、自販機と同様、膨大な量の電力が費やされています。利便性を追求するあまり、未来を考えずムダにばかりしている。まず、そういった生活を見直すこと。それから、なるべく森に行って自然について知る。これらの簡単な心がけが、温暖化を防ぐための重要な一歩となります。
―最後に、今後カナダはどのように環境問題に取り組むべきか教えて下さい。
福田教授 森林管理については、カナダはしっかり対応していると思います。しかし、環境問題全体に対する危機感が今一歩、足りない気がします。今から対応していかないと、温暖化は進むばかりです。観光産業にもっと力を入れるといいのでは。お薦めは、カナダの大自然を利用した「エコツアー」です。観光客が自然そのものを楽しみながら旅行する。自然と楽しく触れ合っていくことが、地球の未来を守ることに繋がるのです。
―本日はありがとうございました。

   
Copyright(c) 2000-2005 J-wave communications All rights reserved No reproduction or republication without written permission